種苗法の誤解

 昨今、種子法の廃止や種苗法改定で、種の権利についての議論が巻き起こっています。
 でも、そこには、大きな誤解があるようです。
 巷では、全ての種の自家採種が禁止になるという噂が広まっているようですが…
 種苗法改定で変わるのは、登録品種の扱い方だけです。
 登録品種での採種や挿し木、わき芽挿しなど、自家増殖する場合は育成者の許可が必要になります。
 一般品種に関しては、こうした制限はありません。
 したがって、昔ながらの固定種(在来種)は、自家採種しても何ら問題はありません。

 たとえば、サツマイモで考えると...
 サツマイモの種芋を植えると、たくさんのツルを伸ばします。
 そのツルを苗にして増殖させることができます。
 翌年も同様に、収穫した芋から苗を取って増殖させることができます。
 こういう場合も、登録品種であれば、育成者の許可が必要になります。
 たとえば、「べにはるか」や「べにまさり」などは登録品種ですから許可が必要になります。
 でも、「安納芋」や「紅あずま」などの一般品種では、許可は必要ありません。
 これは、現在(改訂前)でも、登録品種を扱う場合は、許諾の手続きを行ってるのが普通です。
 改訂後は、許諾の費用など、どうなるかは分かりませんが、影響は少ないだろうと考えられています。

 しかし、一般品種(在来種)だからといっても安心はできません。
 自然栽培や有機栽培農家は、昔ながらの在来種の種を採り続けています。
 味や収量など、毎年、選抜しながら品種改良していくのでこれも育種です。
 もし、他者(他社)が同じように、選抜を重ねながら品種改良し、それが品種登録されたとします。
 こういう場合は、元の在来種と品種登録されたものとの区別はできません。
 特性が類似していた場合に、権利侵害で訴えられる可能性も出てくるわけです。

 それよりも問題なのは、毎年、自家採種して種を守り継いでいる農家が希少だということです。
 (種の権利が、どうのこうのと言っている段階ではない)
 慣行農法では、F1種(交配種)を使用しますから自家採種は行いません。
 毎年、企業から買った種で栽培しています。
 その慣行農法の耕地面積は、99.5%ほどです。
 ほとんどの農家は、種の権利を、すでに放棄しているのです。

 自家採種できるのは、固定種(在来種)という種類の種です。
 固定種というのは、昔ながらの種で品種登録されたものではありません。
 現在、自家採種を行っている農家というのは、基本的に自然栽培農家です。
 または、有機栽培農家の一部です。
 自然栽培農家の割合は、数字にも表れません。
 有機栽培農家(有機JAS+非JAS)は、残りの0.5%です。
 したがって、実際に、自家採種を行っている農家は、0.5%より、はるかに少ないということになります。

 深刻な問題は、固定種の供給元である採種農家も高齢化が進み、廃業が余儀なくされていることです。
 採種をやめてしまうと、当然、その種(野菜)は途絶えてしまいます。
 途絶えてしまった種(野菜)は、二度と復活することができません。
 種は、人類にとっての貴重な遺伝資源です。
 新しい品種の育成には多様な原種が必要です。
 現実に、各地域で古来から継承してきた種(野菜)の多くが絶滅しているのです。

 種を守るといっても、種は生き物ですので寿命があります。
 一般的に(冷蔵庫などで保存する場合)は、長命種子で5~6年くらいです。
 種子専用の貯蔵庫で保管して、大豆15年、小麦20年、トマト30年くらいとされています。(農研機構)
 たとえ、長期保存できたとしても、発芽率は、年々低下していきます。
 そして、いざという時に取り出して育てたとしても、環境に適応できるとは限りません。
 つまり、種を守っていくには、昔ながらの方法(栽培・採種の繰り返し)しかないわけです。

 この経済至上主義の社会では、儲かるものにはお金が集まり発展していきます。
 でも、そうでないものは見向きもされず、消滅の一途をたどることになります。
 種も同じです。
 昔ながらの固定種は消滅に向かい、雄性不稔種子や遺伝子組み換え種子・ゲノム編集種子に置き換わっていくのです。

 種子法の廃止で、主要穀物(米や麦・大豆など)の種の権利が民間へ開放(2018)されることになりました。
 これから、日本でも、主要穀物の種の覇権争いが始まることが懸念されます。
 日本のお米や大豆なども遺伝子操作されたものに変わっていく恐れがあるのです。
 そして、お酒や味噌など、醗酵文化までもが窮地に立たされるかも知れません。

 「種子を制する者が世界を制す」ということで、種は支配関係を強める武器ともなりえます。
 ビルゲイツはじめ、デヴィッド・ロックフェラーJr、ジョージ・ソロスなど支配層自らが、北極圏にあるノルウェー領スバルバル諸島に、世界中の種子を貯蔵しています。
 (ロックフェラー財団、モンサント、シンジェンタ財団、CGIARなども資金提供)
 いわゆる現代版「ノア(種子)の方舟計画」です。
 あらゆる固定種(在来種)の遺伝資源を握ることで、食の大元を掌握し、世界を牛耳ることができるということです。

 種は、作物の命であって、種が無くなると農業は成立しません。
 そんな種を、海外や一部の企業に依存するということは主体性の放棄に他なりません。
 食を守って行くには、種を主眼に置いて、考えていく必要があるのです。